筆者紹介

いのともみ
元警察官ライター
2023年まで都内警察署で勤務。在職中は交通部門で働いた経験が10年近くあり、退職後はWebライターとして飲酒運転防止、安全運転教育などの執筆をおこなっている。
検問は、任意?強制?勘違いしていると危険です!
刑事ドラマでもおなじみの交通検問。実際に見たことや経験したことはありますか?
急いでいるのに検問に引っかかって大渋滞、なんて経験のある方もいるのではないでしょうか。
検問は重要な捜査手法のひとつで、交通違反者や犯罪者の発見を目的として実施されています。
目次
検問の種類は大きくわけて3種類
1つめは刑事ドラマでよくある「ホシが逃げたぞ!検問だ!」のパターン
で、犯罪者を確保するための緊急配備検問。逃走中の被疑者確保を目的とした検問で、現実でも緊急配備時に行われるものです。(ちなみに本当に被疑者のことを「ホシ」と呼ぶ警察官たくさんいます。)
2つめは犯罪の予防や検挙を目的とする警戒検問
国際会議やオリンピック等で行われる検問が代表例で、テロなどを防ぐ目的で実施されています。
3つめは交通違反者の発見と取締りを目的とした交通検問
一言で交通検問と言っても、飲酒検問や自転車検問などいろいろな種類がありますし、交通安全運動期間中などに公開検問としてメディアに情報を公開する場合もあれば非公開で行われる検問もあります。
さらに上記3つを全て内包する、目的を定めずに行われる大規模な一斉検問も存在します。
このコラムでは、飲酒検問に注目して解説してみましょう。
検問と職務質問は似て非なるもの。「ショクシツはニンイだろー、ケンモンもニンイだろー」と拒否していると、場合によっては最終的に逮捕されてしまう事態もありえます。
検問で行われる呼気検査は任意なのか強制なのか、免許証の提示は義務なのか、そもそも検問を突破するとどうなるのか…飲酒検問に関する知識を正しく身につけましょう!
余談ですが、「ニンイだろー」は警察官がいらっとするワード上位なので、言わない方が無難ですよ。
(筆者個人的統計による)
免許証の提示は義務!警察官に求められたら速やかに免許証を提示しよう

交通検問や交通違反取締りでは、警察官から免許証の提示を求められることが多くありますが、この免許証の提示は拒否できるのでしょうか。
結論からいうと、拒否できません。車の運転者は警察官から免許証の提示を求められた場合、それに応じる「運転免許証の提示義務」があります。
道路交通法 第95条
第1項(免許証の携帯及び提示義務)
免許を受けた者は、自動車等を運転するときは、当該自動車等に係る免許証を携帯していなければならない。
第2項
免許を受けた者は、自動車等を運転している場合において、警察官から第六十七条第一項又は第二項の規定による免許証の提示を求められたときは、これを提示しなければならない。
このように、道路交通法にはっきりと「運転免許証の提示義務」について記載されています。
つまり運転免許証の提示は義務。
取締りや検問の現場で運転者が免許証の提示を拒否すると、30分から1時間程度の説得を目安として現行犯逮捕されてしまいます。
運転免許証の提示義務違反で逮捕された人の多くは、手錠をかけられてから青くなって「まさか本当に逮捕されると思わなかった」と言いますが、逮捕されてしまえば後の祭り。
警察官が説得の最中に、「このままだと逮捕しますよ」と言うのはハッタリや脅しではありません。
素直に免許証を出すのが一番です。
もしも免許証を自宅に忘れしまった「免許証不携帯」の場合は、速やかに申し出て警察官の指示に従いましょう。
万が一無免許運転の場合は観念して、おとなしく捕まった方がその後の心証も良くなると思いますよ。
検問での停止は任意でも、検問突破すれば追跡される

そもそも警察が検問を行う根拠法令は、警察の責務として交通の取締りが明記された警察法2条1項です。
警察法 第2条第1項(警察の責務)
警察は、個人の生命、身体及び財産の保護に任じ、犯罪の予防、鎮圧及び捜査、被疑者の逮捕、交通の取締その他公共の安全と秩序の維持に当ることをもつてその責務とする。
警察はこの責務に基づいて、道路交通の安全を守るために検問をしているのですね。
では、検問で停止を求められた場合は停止の義務があるのでしょうか。
実は、「検問で警察官に停止を求められ、その求めに応じて停止すること」は任意です。
とはいえ「任意なら止まらなくていいじゃん」と皆が検問を突破していれば、日本の道路交通は崩壊してしまい、安心して道路を渡ることもできなくなってしまいますよね。
実際に検問を突破するとどうなるのか。
検問を突破したり、検問前で不審な転回をするなどした場合は「不審車両」とみなされます。
警察は不審者や不審車両に対して職務質問をすることができますので、検問を突破した不審車両は職務質問の対象として追跡されることになります。
職務質問の根拠法令は以下の条文のとおり。
警察官職務執行法第2条(質問)
警察官は、異常な挙動その他周囲の事情から合理的に判断して何らかの犯罪を犯し、若しくは犯そうとしていると疑うに足りる相当な理由のある者又は既に行われた犯罪について、若しくは犯罪が行われようとしていることについて知っていると認められる者を停止させて質問することができる。
実際に交通検問が実施される際、警察は検問担当に加えて追跡担当の人員も確保した上で検問を行います。検問場所で白バイやパトカーなどが待機しているのは、場所や人員の確保だけが理由でなく検問突破に備えているから。
さらに大規模な検問や一斉警戒などでは、刑事さんが有事に備えて待機していることもあるのです。
逃げた不審車両は追跡され、停止した場所で職務質問を受けることになるでしょう。
追跡の手を逃れたとしても、車両のナンバーはすでに報告されていると考えて間違いありません。警察無線を通して手配され別の場所でまた職務質問される、事後捜査の上で後日警察官がやってくるということも起こりえます。
こうした追跡の末、検問突破をした人の交通違反や犯罪が明らかになったとしましょう。
逃走・追跡中に信号無視などの交通違反や交通事故を起こした場合、その罪も追加されます。
さらに検問を突破したことで逃走や証拠隠滅のおそれがあるとみなされて、本来なら逮捕まではされない内容の罪だったとしても逮捕されてしまうことがあります。
逃走したことで裁判官の心証が悪くなり、後の刑事裁判で不利になることも考えられるでしょう。
筆者は元警察官だからこそはっきりお伝えしますが、検問突破してもいいことはなにもありません。
やばいと思うことがあったとしても、警察官に停止を求められたら素直に従うようにしましょう。
飲酒検知は拒否できる?呼気検査拒否罪で現行犯逮捕!

飲酒検問の場合は呼気検査を求められますが、この呼気検査は拒否できるのでしょうか。
結論として、拒否はできません。
飲酒検問での呼気検査は義務であることを理解しておきましょう。
警察官が飲酒検問で呼気検査を求めることができる旨は、道路交通法に明記されています。
道路交通法 第67条第3項
車両等に乗車し、又は乗車しようとしている者が第六十五条第一項の規定に違反して車両等を運転するおそれがあると認められるときは、警察官は、次項の規定による措置に関し、その者が身体に保有しているアルコールの程度について調査するため、政令で定めるところにより、その者の呼気の検査をすることができる。
この呼気検査拒否罪の罰則は、道路交通法第118条の2で「3か月以下の懲役又は50万円以下の罰金」とされています。
呼気検査拒否罪は、実際に飲酒しているかどうかは関係ありません。
例え飲酒をしておらず、飲酒してないのだから検査に応じる必要はないと呼気検査を拒否した場合であっても呼気検査罪に該当します。
警察官が呼気検査を求め、30分から1時間程度の説得をした上で、なお呼気検査を拒否する場合は現行犯逮捕されてしまいます。
大抵の人は現行犯逮捕されると観念して呼気検査に応じる場合がほとんど。しかし中には逮捕されてもまだ拒否を続ける人もいます。
逮捕された後もまだ呼気検査を拒否する場合、令状に基づく血液採取と血液検査による血中アルコール濃度の測定が行われます。
この血液採取は強制力を伴うもの。取り押さえられて病院に連れていかれ、暴れてもおさえられて無理やり採取されることになり、物理的に痛い思いをすることになるでしょう。
アルコールは時間がたてば薄れるものだからこそ、呼気検査拒否罪は時間との勝負。
もちろん警察もよく理解しているので、呼気検査拒否罪の対応は迅速に行われます。
拒否していても最終的に血液検査まで持ち込まれるので、「拒否して時間を稼げばそのうちにアルコールが抜けないかな…」という逃げ道は通用しません。
もし飲酒運転している事実があるならば、素直に応じた方が身のためと言えるでしょう。
警察官の態度が気に食わないなどの理由なら、呼気検査を拒否するよりも、検査そのものには応じてから言いたいことはっきり伝えるべき。
警察官が気に食わないという理由で逮捕されてしまうことになったらあんまりです。
この呼気検査拒否罪は運転者本人だけでなく、検査を妨害しようとした者も対象となります。
誰かを庇うつもりで、ほんの軽い気持ちでした妨害行為でも、現行犯逮捕される可能性があるのです。
道路交通法において飲酒運転は厳しく罰せられるもの。
過去コラムでも何度か登場している「飲酒運転周辺者三罪」などからも明らかなように、飲酒運転は本人だけでなく周囲の人物にも責任が及ぶ重大な犯罪行為であることを理解しましょう。

【元警察官】が解説!知らないと大変!「飲酒運転周辺者三罪」
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飲酒運転、ダメ、ゼッタイ。
法改正により自転車の飲酒運転取締りが強化された現在、自転車での呼気検査拒否罪も成立します。
実際に自転車に対する飲酒検問も実施されていますので、自転車に乗っている時に呼気検査を求められた場合でも、素直に応じるようにして下さいね。
アメリカで飲酒検問にも利用されるアルコールマネージャー®!

呼気検査において最も重要なのは、正確にアルコール濃度が検知されること。
この検査の結果で逮捕されるのだから、検知器の正確さはとても大切ですよね。
呼気検査が適正な手続きによって行われたものかどうかは裁判でもよく争点になるほど重視されており、実際に検査機材の使用期限が過ぎていたことを理由に逮捕後55分で釈放になった事例もあります。
酒気帯び運転で逮捕→55分後にまさかの釈放のワケは? 飲酒検知の手続を解説(前田恒彦)
当社取り扱いのアルコールマネージャー®は、アメリカでは公的機関でも利用されており、正確に呼気中アルコール濃度を検知することが可能です。
アルコールチェッカーにおいて最重要項目である検知の正確さに加え、年に1度のメンテナンスや取扱いやすさ、さらにはコストパフォーマンスにも優れた一押しの商品です。
アルコールチェッカーの導入を検討中の企業様は、この機会に是非導入をご検討下さい。
検問には素直に応じて!協力して飲酒運転を撲滅しよう

検問は渋滞も発生するし、運転する側からすると迷惑なものですよね。
ですがその気持ちをぐっとこらえ、面倒な検問に協力してあげて下さい。
飲酒検問に素直に応じることや、呼気検査を嫌がらずに受けること。
簡単なことですが、とても大切です。
一人一人の協力的な姿勢が結果としてスムーズな検問を支え、渋滞の緩和に貢献し、効果的な交通取り締まりを支える力になるのですから。
そう思えば検問に協力することだって、立派な社会貢献といえるのではないでしょうか。
飲酒運転撲滅を願う心を持って、紳士的な態度で検問に応じて頂きたいと思います。