【元警察官】が解説!安全運転管理者の業務①

違反の容認は処罰対象!安全運転管理者に求められる9つの業務

企業において社員の安全運転を管理する安全運転管理者。

前回のコラムでは安全運転管理者の重要性とリスクマネジメントについてご説明しました。

いよいよ今回は、安全運転管理者に定められた9つの業務について解説していきます。

安全運転管理者には道路交通法で定められた9つの業務があり、その内容に沿って必要な規定や帳票を整備したり安全教育を実施したりすることが求められています。

昨今話題になっているアルコールチェックも、この安全運転管理者の業務内容に追加されたもの。

逆に言うと、安全運転管理者に指定されたからにはアルコールチェックだけでは不十分。その他の業務内容も理解しておかなければなりません。

「安全運転管理者になったものの、何をすればいいかわからない」「安全運転なんて、結局個人の心がけでしょ?」「とりあえずアルコールチェックだけやっとけばいいよね」といった考えは要注意。

道路交通法では、一定の違反に関して下命・容認の罰則規定があります。

安全運転管理者が定められた業務を行なわずに社員が過労運転などで事故を起こしてしまった場合、企業と安全運転管理者が管理者責任を問われる事態に発展してしまいます。

つまり交通事故は個人の責任に留まらず、企業責任も問われるということをまずは理解しておきましょう。

安全運転管理者を選任している以上責任をもって企業内の安全運転管理に努めなければ、いざ事故や違反が発生した際に「安全運転指導をなにもしていない、違反を容認している」と処罰されてしまうかもしれません。

そうならないためにも、今回紹介する安全運転管理者の業務内容を理解し実践していきましょう。

なお、本コラムは弊社安全運転管理者が受講した、神奈川県安全運転管理者法定講習資料「再点検!安全運転管理者~見直そう自社のリスクマネジメント~」を参考に作成しています。

安全運転管理者に選任されると年に一度の法定講習を受講する必用があります。この一日講習を受講することで、安全運転管理に関する基礎知識と最新情報が得られるようになっています。

安全運転管理者の皆様は忘れずに受講をするようにして下さいね。

業務1 運転者の適性等の把握

≪自動車の運転に関する運転者の適性や技能・知識、道路交通法をはじめとする法令順守の状況を把握するため、必要な措置を講ずる≫

どんな仕事でも共通することですが、業務を行うにあたってまずは情報収集が大切。安全運転管理者の業務その1は社員の運転に関する情報を集め把握しましょうというものです。

では「運転に関する適性や技能・知識、法令順守の状況把握」と記載される運転に関する情報とはどのようなものでしょうか?

例えば

・免許はゴールドだけど実際はペーパードライバーで、運転技術に自信がない

・運転すると怒りっぽくなって、車内では暴言を吐いている

・普段は効率よく仕事ができる人だけど、運転するとスピードを出したり割り込んだりしており違反行為が目立つ

・過去に違反を繰り返して免停処分になったことがある

などの運転に関する様々な情報のことをいいます。

こういった情報を把握できていると、社員それぞれに最適なアドバイスが行えますね。

もちろん個人情報なので厳重に管理する必用がありますが、安全運転管理者が社員の運転適性等を把握できていると安全運転管理を行う際にとても役立ち重宝します。

運転適性の把握するためには、具体的にどうすればよいか考えてみましょう。

・運転免許の取得・更新状況を調査して、免許失効による無免許運転にならないようにする

・取得している免許の車種や区分(ゴールドやブルーなど)を一覧化しておく

・運転記録証明書を利用して、過去の違反歴や事故歴を把握する

・運転適性検査を実施し、運転特性(運転時に現れやすい性格や運転の傾向)を知る

などが挙げられます。

運転免許証は運転に関する情報の宝庫です。有効期限を確認することはもちろん、車種や区分も確認して帳票等にまとめ一覧化しておくとよいとされています。

運転記録証明書は自動車安全運転センターが発行する証明書で、過去(1年・3年・5年)の違反や事故、行政処分歴が記載されています。発行方法は各県の安全運転センターによって異なりますが、簡単な手続きで取得することができます。

違反歴がある社員に対して優先的に社内安全教育を実施するというのも、非常に有効な安全教育の手法ですね。

運転適性検査はいくつか代表的なものがありますが、どれも運転時の傾向や特性を知り運転に役立てるためのテストです。自動車教習所や運転免許試験場でも取り入れられています。

簡単なペーパーテストで結果が出るので、是非社内で実施してみて下さい。運転者本人にとっても自分の運転を振り返る機会になり、安全教育という面でも非常に有効です。

安全運転の呼びかけのためにも定期的に実施し、検査結果を安全運転管理者が一括管理しておくとよいでしょう。

何も知らない状態で安全運転管理業務は行えないため、必用な情報はしっかりと把握する必用があります。把握した情報は個人情報ですので、適切な方法で厳重に管理して下さい。

業務2 運転計画の作成

≪最高速度違反、過積載、過労運転、放置駐車の防止などに十分に気を配って、運行計画を作成する≫

仕事で運転をする際には、事前に運行計画を立てるようにしましょう。事前に交通情報を入手するなどして、休憩や渋滞を見込んだうえで余裕のある計画を立て運転者がゆとりをもって運転できるようにして下さい。

運行計画を立てないと、以下のようなリスクが考えられます。

・運転者が休憩なしの無理な長時間運転をしてしまい、過労運転となる

・ルートが分からず脇道に迷い込み、歩行者と接触事故を起こす

・定期的な車両整備が実施されず、オイルやライトなどの整備不良で立ち往生してしまう

・無理やり荷物を載せて運行した結果、過積載となり道路に荷物を落としてしまう

・早めに現場近くに行き道路上で停車待機した結果、他の車両の通行妨害をしてしまう

運行計画を立てることで防げる違反や事故が数多くあることを理解して、無理のない運行計画を作るようにして下さい。

運行計画作成にあたっては、以下の点に配慮しましょう。

・運転者への配慮(運転技量、健康状態など)

・車両への配慮(車種、点検・整備状況など)

・業務への配慮(運行距離、積荷の種類など)

・道路への配慮(危険地点、路面状況など)

運行計画作成にあたっては、運転者本人からヒアリングをすることが大切です。

実際に運転している本人にしか知りえない道路状況などの情報を取り入れ、本人の健康状態や業務内容を考慮した運行計画を作ることで事故を未然に防ぎましょう。

運転者本人が十分に休憩をとれる無理のない時間配分となること、事故リスクの高い生活道路(せまい脇道やスクールゾーンなどの歩行者の多い道路のこと)を避けた安全なルートを通ることを重視して運行計画を作成して下さいね。

業務3 交代運転者の配置

≪運転者が長距離運転又は夜間運転に従事する場合、過労等により安全な運転ができないおそれがあるときは、あらかじめ交代運転者を配置する≫

疲れていても大丈夫だろうと無理をして運転してしまい、過労運転や居眠り運転になったことが原因で発生した交通事故は数多くあります。

連続して運転できる時間や休憩・交代についての基準を社内で設定し、長距離運転や夜間運転の場合は交代して運転してくれる交代運転者をあらかじめ決めておきましょう。

では連続して運転できる時間とはどの程度なのか、参考になる基準を調べてみました。

トラックドライバーなどの自動車運転者に向けて厚生労働省が定めた「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準」自動車運転者の労働時間等の改善のための基準(改善基準告示) |厚生労働省 2024年問題をご紹介します。

この基準によると

・1日の運転時間は9時間以内

・連続運転は4時間以内、高速道路の場合は2時間程度

・休憩は運転4時間につき30分以上(分割して休憩でも可)

と設定されており、基準を超える場合は交代運転者を確保することとされています。

この基準を目安に社内規定を策定してみてはいかがでしょうか。ただし上記の基準は職業ドライバーを想定した設定ですので、連続運転時間などは基準より短めに設定するのが良いでしょう。

長時間の連続運転は疲労が蓄積します。

疲労がたまると集中力や判断力を損ない、いざという時の危険認知やハンドル・ブレーキ操作に遅れが発生します。

社員を交通事故の危険から守るために、必ず休憩時間を確保した運行計画を作成して下さい。

そして夜間運転や長距離運転の場合は以下の点を確認しましょう。

・運転者の体調は長時間運転に耐えられる状態か

・連続運転時間はどのくらいか

・交代運転者とどこで交代するのか

・同乗するのか、バトンタッチ方式で乗り継ぐのか

このような点まで具体的に安全運転管理者が指示確認をしてから出発することで、過労運転や居眠り運転を防ぐことができます。

業務4 異常気象時等の安全運転の確保

≪異常気象、天災その他の理由により、安全な運転の確保に支障が生ずるおそれがあるときは、安全な運転の確保を図るための措置を講ずる≫

運転トラブル代表例のひとつ、異常気象。安全運転管理者は運転の安全を確保する立場にあります。異常気象等のトラブル時にもすみやかに状況を把握し適切な指示伝達ができるよう、緊急連絡網を事前に整備しておかなければなりません。

同時に天気予報や交通情報を普段から確認するようにして、トラブル回避に努める必要があります。

ここでいう異常気象に該当する主なものは

①豪雨 ②大雪 ③強風 ④地震 ⑤その他事前環境の変化 ⑥ガス爆発、水道管の破裂 

⑦道路での重大事故 ⑧祭礼等による通行規制 とされています。

豪雨や大雪などは天気予報から、通行規制は交通情報から予測できるので、回避できるものは全力で回避しましょう。雪道の走行はスタッドレスタイヤやチェーンを装備するなど、状況に応じた対策も必要ですね。

一方で回避できない突然のトラブルが発生した場合にも運転者が落ち着いて行動できるよう、普段から異常発生時の対応方法について話しておき、車内に対応マニュアルを置いておくなどの工夫をしてみて下さい。

とにかく運転者が落ち着いて行動できるようにすることが大切です。

運転状態でパニックになるほど危険なことはありません。トラブル発生直後では冷静な判断もできないでしょう。

落ち着いて車を停止させ、安全運転管理者に連絡が出来るようにしておきましょう。

警察では、大地震発生時には車両は鍵をかけない状態で駐車場や道路脇によせて停車し、歩いて避難するよう呼びかけています。緊急車両の通行を確保するための措置で指定道路は通行止めになりますので、措置マニュアルに地震発生時は車を使わないことを盛り込んでおくとよいと思いますよ。

業務5 点呼・日常点検等による安全運転の確保

≪運転者に対して点呼等を行い、日常点検整備の実施や聖女な運転ができることを確認し、安全な運転を確保するために必要な指示を与える≫

毎日の点呼は、運転者の健康状態を確認し安全に運転できるか判断するための大切な日常業務です。

点呼というと名前を呼んで「はい」と答えるイメージが強いかもしれませんが、日常的に朝礼などを行って対面で顔を合わせる機会をつくるようにして下さいという意味です。

直接顔を見ることができれば体調の判断が行いやすく、過労運転や飲酒運転を防ぐことができます。

出勤時間がばらばらで集合が出来ない場合でも、できる限り安全運転管理者が出発前に様子を見にいくようにすると安全運転の確保の面でも安心ですし、社員との信頼関係の構築にも役立つのではないでしょうか。

また車両の日常的な整備も大切です。

ライトやタイヤの空気圧等を確認し、ガソリンの給油状況と距離メーターを記録しておきましょう。

給油回数が多い時や運転時間と比較してメーターが進んでいる時は、申告された運転時間に偽りがないか確認しておきましょう。運転操作が未熟な場合やスピードを出す癖がある場合も、アクセルとブレーキの使用率が上がるので給油回数が上がる傾向があります。

日常点検は車両故障を防ぐだけでなく、運転状況を把握するための情報収集にもつながりますので、少しめんどうですが実施するようにして下さいね。

安全運転管理者の業務は幅広い!協力者や機器利用で負担軽減を

安全運転管理者の業務は幅広く、社員数や車両台数が多ければそれだけ業務量も増えてゆきます。もちろん責任をもって行うべき業務内容ですが、一人で抱えきれない場合は協力してくれる人や利用できる機器を頼って負担がよらないように工夫してください。

当社取り扱いのアルコールマネージャー®は、忙しい安全運転管理者様の力強い味方になれるおすすめ商品です。当社では安全運転管理者の皆様へ向けた情報発信を積極的に実施しておりますので、お困りごとの相談に是非当社をご利用いただければ幸いです。

今回コラムでは安全運転管理者の業務1から業務5までを解説しました。

次回コラムでは業務6から業務9までご紹介しますので、次回もぜひ御覧ください。

ライター紹介:いのともみ

元警察官。半年前まで都内警察署で勤務。在職中は交通部門で働いた経験が10年近くあり、退職後はWebライターとして飲酒運転防止、安全運転教育などの執筆をおこなっている。

さぁ今から、「手軽にアルコールチェックの自動化」始めましょう。