2022年4月から道路交通法の法改正により、業務で車を運転する際、運転者のアルコールチェックが義務化されました。これは、タクシーやトラックなどの「緑ナンバー」の車両だけでなく、社用車や営業車といった「白ナンバー」の車両も対象となり、企業の安全運転管理において非常に重要な変更点です。
この記事では、元警察官としての経験も踏まえ、アルコールチェック義務化の背景や具体的な対応策、そして企業が知っておくべき情報について分かりやすく解説します。
目次 / このページでわかること
アルコールチェック義務化の概要

道路交通法の法改正により、安全運転管理者による運転者のアルコールチェック業務が、これまで対象ではなかった白ナンバーの事業用自動車にも義務付けられました。まずはアルコールチェック義務化の背景と概要から説明していきます。
法改正の背景
アルコールチェック義務化の背景には、過去に発生した痛ましい飲酒運転事故があります。特に、2021年6月に千葉県八街市で発生した、飲酒運転の白ナンバートラックによる死傷事故が大きなきっかけとなりました。
当時、白ナンバー車両には運転前のアルコールチェックが義務付けられておらず、これが事故の一因と指摘されました。このような悲惨な事故を二度と起こさないという目的のもと、飲酒運転の根絶に向けた緊急対策が講じられ、その一環として道路交通法の改正が進められ、アルコールチェック義務化へとつながりました。
法改正の背景には、尊い命が失われた現実があり、元警察官としては、このような事故を未然に防ぐための対策強化は非常に重要だと感じています。
2022年4月からの変更点
2022年4月1日から、アルコールチェック義務化の第一段階として、安全運転管理者の業務に以下の2点が追加されました。
一つ目は、運転前後の運転者に対し、酒気帯びの有無を目視等で確認することです。これまでは緑ナンバーの事業用自動車が主な対象でしたが、この改正により一定台数以上の白ナンバー車両を使用する事業所も対象となりました。
二つ目は、この酒気帯び確認の結果を記録し、その記録を1年間保存することです。この時点では、アルコール検知器の使用は義務ではなく、運転者の顔色や声の調子、呼気の臭いなどで確認する「目視等」による確認が認められていました。
2023年12月からの変更点
2023年12月1日からは、アルコールチェック義務化の第二段階として、安全運転管理者による運転者の酒気帯びの有無の確認に、国家公安委員会が定めるアルコール検知器を用いることが義務付けられました。
当初は2022年10月からの施行が予定されていましたが、半導体不足によるアルコール検知器の供給状況などを考慮し、2023年12月に延期されていました。この改正により、より客観的かつ正確な確認が可能となり、飲酒運転の早期発見と防止に繋がることが期待されています。
また、アルコール検知器を常時有効に保持することも義務付けられました。これは、機器がいつでも正常に作動する状態にしておく必要があるという意味です。道交法の改正により、企業に求められる対応はより厳格になっています。
義務化の対象となる事業所

アルコールチェック義務化の対象となるのは、安全運転管理者を選任しなければならない事業所です。これは、企業全体ではなく事業所ごとで判断されます。対象となるかどうかは、保有する車両の台数と種類によって決まります。
対象となる事業所
アルコールチェック義務化の対象となるのは、以下のいずれかを満たした事業所です。
● 白ナンバーの車を5台以上使用
● 定員11人以上の車を1台以上使用
つまり、アルコールチェックの義務化の対象かどうかは、事業所ごとに車両の保有状況で判断されます。今回の法改正のポイントは、従来の緑ナンバーの車両だけでなく、白ナンバーの社用車や営業車を所有する事業所も義務化の対象となったことです。ただし、業務で一切運転しない純粋なマイカー通勤のみの場合や、業務と見なされない車両は対象外となることがあります。
安全運転管理者の選任
安全運転管理者制度は、道路交通法に基づき、事業所の安全運転を確保するための制度です。
以下のいずれかに該当する事業所は、安全運転管理者を選任する義務があります。
● 白ナンバーの車を5台以上使用
● 定員11人以上の車を1台以上使用。
また安全運転管理者には要件があり、20歳以上(副安全運転管理者がいる場合は30歳以上)で、運転管理の実務経験が2年以上必要です。また、過去2年以内に公安委員会の解任命令を受けていない、一定の違反行為をしていないなどの欠格事項に該当しないことも重要です。
選任後は15日以内に公安委員会への届出が必要です。選任義務や届出を怠ると罰則の対象となるため、対象となる場合は速やかに手続きを行いましょう。
車両台数に応じて副安全運転管理者の選任も必要となります。例えば、20台以上の自動車を使用している場合は副安全運転管理者を1人選任し、40台以上では20台ごとに1人追加が必要です。
安全運転管理者の選任は、事業所の安全管理体制の基本となります。
企業が取り組むべき事項

アルコールチェック義務化に対応するため、企業はいくつかの重要な事項に取り組む必要があります。これらの対応を適切に行うことで、法令遵守はもちろん、従業員の安全確保と社会的な信頼の維持に繋がります。
安全運転管理者の役割
安全運転管理者は、アルコールチェック義務化において中心的な役割を担います。運転者の酒気帯びの有無の確認とその記録・保管に加え、運転者の適性や法令遵守状況の把握、運行計画の作成、危険運転防止のための措置、異常気象時などの安全確保など、幅広い業務を担当します。
安全運転管理者が不在の場合に備え、副安全運転管理者や補助者を置くことも有効です。これらの管理者や補助者が連携し、確実にアルコールチェックが実施できる体制を構築することが重要です。緑ナンバーの事業所で運行管理者が行う点呼業務と類似する点が多くあります。
アルコール検知器の準備と管理
2023年12月からは、国家公安委員会が定める基準を満たすアルコール検知器を用いたアルコールチェックが義務付けられました。
この基準を満たす機器を準備し、常時有効に保持する必要があります。アルコール検知器の基準としては、呼気中のアルコールを検知し、その有無または濃度を警告音、警告灯、数値などで示す機能を有していることが求められます。
また、検知器は定期的なメンテナンスや校正が必要な場合があるため、適切に管理し、故障なく使用できる状態を保つことが重要です。業務では信頼性の高い機器を選定することが、正確な測定のために不可欠です。
確認結果の記録と保管
アルコールチェックを行った際は、その確認結果を記録し、1年間保存する義務があります。
記録すべき項目は以下の8項目です。
①確認者名
②運転者名
③運転者の業務に係る自動車の登録番号または識別できる記号・番号等
④確認の日時
⑤確認の方法(アルコール検知器の使用の有無、対面でない場合は具体的な方法)
⑥酒気帯びの有無
⑦指示事項
⑧その他必要な事項
これらの項目を漏れなく記録することが求められます。
記録は紙の記録簿でも構いませんが、最近ではExcelやPDFのテンプレート、あるいは後述するシステムを活用する企業も増えています。確実な記録と保管体制を整備することが、義務化遵守の基本です。
社内ルールの整備と周知
アルコールチェック義務化に伴い、企業は社内ルールを明確に定める必要があります。
どのようなタイミングで、誰が、どのようにアルコールチェックを行うのか、アルコールが検出された場合の対応、記録の方法と保管場所などを具体的に規定し、従業員に周知徹底することが重要です。
安全運転管理者やその他の従業員が、新しいルールを正確に理解し、日々の業務で実践できるよう、研修などを実施することも有効です。ルールが曖昧だと、義務化の抜け穴となり、飲酒運転のリスクを高めることにも繋がりかねません。
アルコールチェック実施のポイント

アルコールチェックを適切に実施するためには、いくつかのポイントがあります。特に、確認を行うタイミングや、対面での確認が難しい場合の対応について、事前に確認しておくことが重要です。
確認を行うタイミング
アルコールチェックは、運転を含む業務の開始前または出勤時と、運転を含む業務の終了後または退勤時の1日2回行う必要があります。
これは、運転前に酒気を帯びていないかを確認するだけでなく、業務中に飲酒していないかを確認する目的もあります。点呼の際にアルコールチェックを実施することが一般的ですが、早朝や深夜など、事業所の稼働時間外に運転業務が発生する場合も、事前に定めたルールに基づいて確認を行う必要があります。
対面での確認が難しい場合の対応
原則として、アルコールチェックは安全運転管理者による対面での実施が求められます。しかし、直行直帰や出張など、対面での確認が物理的に難しい場合もあります。
このような場合は、対面に準ずる方法として、カメラやモニター、携帯電話などを用いて運転者の顔色や声の調子を確認し、同時にアルコール検知器による測定結果を報告させる方法が認められています。メールなどによる一方的な報告だけでは不十分とされています。
どのように実施するかを具体的に定め、従業員に周知しておくことが円滑な運用の鍵となります。対面での確認をスムーズに行うためにも、アルコールチェックアプリなどのシステムの活用は有効です。
アルコールが検出された場合の対応
アルコールチェックでアルコールが検出された場合は、その運転者を運転業務に就かせてはなりません。
また、アルコールが検出された場合の対応について、社内ルールで明確に定めておく必要があります。例えば、アルコール濃度が基準値未満であっても、少しでも検出された場合は運転を見合わせる、代替の運転者を確保する、といった対応が考えられます。
元警察官として、たとえ微量であってもアルコールが検出された場合の運転は非常に危険であり、絶対に行わないべきだと強く申し上げたいです。アルコールが検出された場合の指示事項や講じた措置についても、確認記録に記載する必要があります。
アルコール検知器の選び方

アルコールチェック義務化に伴い、アルコール検知器の準備は必須となりました。様々な種類の機器があるため、自社の状況に合った適切なアルコール検知器を選ぶことが重要です。
性能と機能
国家公安委員会が定めるアルコール検知器の要件は、呼気中のアルコールを検知し、その有無または濃度を警告音、警告灯、数値などのいずれかにより示す機能を有していることです。
これに加え、高精度な測定が可能な燃料電池式(電気化学式)センサーを搭載した機器や、測定結果を自動的に記録・送信する機能を備えた機器など、様々な性能や機能を持つアルコールチェッカーがあります。測定の正確性や、日々の運用における利便性を考慮して選ぶことが大切です。

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携帯型と据え置き型
アルコール検知器には、持ち運びが可能な携帯型と、事業所などに設置する据え置き型があります。携帯型は、直行直帰や出張など、場所を選ばずにアルコールチェックを行う場合に便利です。一方、据え置き型は、多くの運転者が集まる事業所などで効率的にチェックを行うのに適しています。それぞれの特徴を理解し、自社の運行形態や事業所の状況に合わせて適切なタイプを選ぶことが重要です。両方のタイプを組み合わせて運用することも考えられます。
その他の選択基準
アルコール検知器を選ぶ際には、性能や機能、携帯型か据え置き型かといった点以外にも、いくつかの選択基準があります。例えば、機器の耐久性やセンサーの交換頻度、メーカーのサポート体制なども考慮に入れるべきでしょう。
また、導入コストだけでなく、ランニングコストやメンテナンス費用も把握しておくことが重要です。さらに、後述するアルコールチェック管理システムとの連携が可能かどうかも、運用効率を考える上で重要な基準となります。
義務違反に関する罰則

アルコールチェック義務化への対応を怠った場合、直接的な罰則はありませんが、安全運転管理者の業務違反となり、間接的な影響や、飲酒運転が発生した場合の重い罰則に繋がる可能性があります。
安全運転管理者への影響
安全運転管理者がアルコールチェックの実施や記録・保存を怠るなど、その業務を適切に行わなかった場合、安全運転管理者の業務違反となります。これにより、公安委員会から是正措置命令が出される可能性があり、さらに改善が見られない場合は、安全運転管理者の解任命令が出されることもあります
安全運転管理者の選任義務自体に違反した場合も罰則の対象となります。安全運転管理者は、法令遵守のために重要な責任を負っています。
飲酒運転に関する罰則
アルコールチェックを適切に行わなかった結果、従業員が飲酒運転や酒気帯び運転を行い、事故が発生した場合、運転者本人だけでなく、車両を提供した企業の代表者や安全運転管理者も、運転者と同等の重い罰則(懲役や罰金)の対象となる可能性があります。
飲酒運転は非常に悪質性が高く、個人の責任はもちろん、企業の管理責任も厳しく問われます。飲酒運転の罰則は非常に重く、酒気帯び運転でも違反点数や免許停止・取消の対象となります。
よくある質問

アルコールチェック義務化に関して、中小企業の安全運転管理者様や総務担当者様から寄せられることが多い質問とその回答をまとめました。
Q. マイカー通勤の場合は
マイカー通勤者が、勤務時間中に業務で車両を運転する場合(例えば、営業活動で顧客先へ行く場合など)は、アルコールチェック義務化の対象となります。事業主が勤務時間中にそのマイカーを実質的に管理し、社用車として運用しているとみなされるためです。一方で、業務で一切運転せず、純粋に通勤のためだけにマイカーを使用している場合は、現在のところアルコールチェックの法的義務はありません。しかし、マイカー通勤中の事故についても企業が使用者責任を問われる可能性があり、飲酒運転防止の観点から、自主的にアルコールチェックを実施することも検討すべきでしょう。
Q. レンタカーを使用する場合は
業務でレンタカーを使用する場合も、アルコールチェック義務化の対象となります。自社が所有する車両であるかどうかにかかわらず、業務のために運転する場合は確認が必要です。レンタカーを利用する頻度が高い事業所では、携帯型のアルコール検知器を準備し、運転前に必ずチェックを行う体制を整える必要があります。
Q. 記録の提出義務
アルコールチェックの記録は、事業所内で1年間保存する義務がありますが、警察などへの定期的な提出義務はありません。ただし、飲酒運転による事故などが発生した場合や、立ち入り検査などがあった際には、記録の提示を求められることがあります。適切に記録・保管しておくことが重要です。
アルコールチェック義務化による業務負担と効率化

アルコールチェック義務化により、安全運転管理者や運転者の業務負担が増加したと感じている企業も少なくありません。しかし、システムの活用などにより、業務の効率化を図ることも可能です。
管理者および運転者の負担
安全運転管理者は、運転前後の対面またはそれに準ずる方法での確認、記録、保管といった業務が増えました。運転者も、運転前後にアルコールチェックを受ける時間が必要となり、特に直行直帰や深夜早朝の運転がある場合は、管理者の負担だけでなく、運転者自身の負担も増加する可能性があります。
毎日のアルコールチェックは、これまでの業務フローに新たな手順を加えることになり、慣れるまでは負担に感じるかもしれません。
システムを活用した運用
アルコールチェック義務化に伴う業務負担を軽減し、効率的な運用を実現するために、アルコールチェックを管理するシステム(アプリ)を導入する企業が増えています。これらのシステムでは、アルコール検知器と連携して測定結果を自動で記録・送信したり、運転者からの報告をシステム上で一元管理したりすることが可能です。
スマートフォンアプリと連携できるシステムもあり、直行直帰の場合でもリモートで確認を行いやすくなります。記録の自動作成や、管理簿の出力機能なども備わっており、紙やExcelでの管理に比べて大幅な効率化が期待できます。
システムによっては、メールでの通知機能など、管理者と運転者間のコミュニケーションを円滑にする機能も搭載されています。システムを活用することで、法令遵守を徹底しつつ、管理者の負担を軽減し、よりスマートなアルコールチェックの運用が可能となります。
おすすめのアルコールチェックアプリについてはこちらの記事を参考にしてください。

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