筆者紹介

いのともみ
元警察官ライター
2023年まで都内警察署で勤務。在職中は交通部門で働いた経験が10年近くあり、退職後はWebライターとして飲酒運転防止、安全運転教育などの執筆をおこなっている。
お酒は20歳以上ならだれでも飲むことができて、飲むとリラックスして楽しい気持ちになれますね。
純粋にお酒が美味しくて好きという方も多いのではないでしょうか。
現代のストレス社会の中で、お酒はひと時のリラックスアイテムや人間関係を円滑にする克順油として、もはやなくてはならないものと言えるかもしれません。
一方で、アルコールには依存性があることも周知の事実。
お酒を飲むことが習慣化し、やがて生活の中で飲むことが最優先になり、毎日深酒してしまうほど依存が進み、トラブルが表面化してくるとそれは「アルコール依存症」です。
お酒を飲む人ならば、実は誰もがアルコール依存症の危険と背中合わせにあると言えるでしょう。
今回コラムのテーマはアルコール依存症。
アルコール依存症に関する誤解や偏見から脱出して、正しい知識を身につけましょう。
そして身近な人や自分自身の飲酒生活を見直すきっかけにしてみて下さいね。
なお、本コラムは特定非営利法人ASKの公式ホームページを参考にしています。
目次
アルコール依存症に意志の強さは関係ない!偏見が治療を妨げます
そもそも依存症とはどのような状態をいうのでしょうか。
依存症にはアルコール以外にもギャンブルや薬物などがありますが、全てに共通点があります。
特定非営利活動法人ASKの公式ホームページによると、依存症の共通点は
●その物質あるいは行為が、脳になんらかの快感をもたらすこと。
●同時に、ストレス・心の痛み・むなしさや寂しさなどを緩和する「自己治療」の側面があること。
●習慣化し、より強い刺激を求め、問題が起きているのにやめられないなど、エスカレートとコントロール喪失が出現すること。
とされています。(「依存症という病気」について|特定非営利活動法人ASK)
アルコール依存症と聞くと、「だらしない・ダメな人がなるもの、意志が強ければ治せるもの」というイメージがあるかもしれません。
しかし実際は、年齢・性別・社会的立場に関わらず、飲酒をする人なら誰でも発症のリスクがある病気。
お酒をやめられなくなるのは意志の強さに関係なく、「飲酒をコントロールできない」という症状なのです。
アルコール依存症患者が身体を壊して医師に飲酒を止められても飲んでしまう、本人もダメだと思いつつ飲んでしまうなどは病気の症状にほかなりません。
まずは意志が弱い・ダメな人間だからお酒をやめられないという誤解を正しましょう。
このような誤解は、アルコール依存症患者が助けを求める声を委縮させてしまい、正しい治療を受ける道を塞ぐ冷たい偏見になってしまいます。
アルコール依存症は段階を経て重傷化していきますが、どの段階でも専門治療や援助・自助グループへの参加で、回復と社会復帰が可能な病気であることを理解しましょう。
アルコール依存症の入り口は「自己治癒」の飲酒…多くの酒飲みはアルコール依存症との境界線上にいます!

あなたがお酒を飲むのはどんな時ですか?
仲間同士で楽しく飲み会、仕事上のおつきあい、仕事や育児のストレス発散、疲れた一日の締めくくりに、など十人十色のお酒模様。
もちろん楽しく飲めれば一番ですが、楽しい場面だけでなく苦しい場面に寄り添ってくれるお酒もありますよね。
依存症の共通点に「自己治癒の側面がある」とされているように、苦しい時・悲しい時・さみしい時にストレスや心の痛みを緩和するためお酒を飲みはじめ、やがて飲酒が習慣化しエスカレートしてアルコール依存症に陥ってしまう例が多いようです。
またアルコール依存症は「否認の病気」と言われ、周囲が飲酒状況について指摘しても認めず、頑固に医療を拒否することも特徴のひとつ。
本人が強く否定するため、周囲は「本人がそう言うなら…」と治療を勧められず、どんどんと症状が悪化してしまうのです。
依存症の入り口がどこにでもあるからこそ、知らぬ間にアルコール依存症との境界線に進んでいても、本人はなかなか気が付けません。
周囲の人は「なにかおかしいな」と感じても、本人が否定するため様子見に留めてしまい、やがて症状が悪化してから大変な苦労をすることになってしまうのです。
では「飲酒」と「アルコール依存症」との境界線はどこにあるのでしょうか。
多くの酒飲みはアルコール依存症との境界線上にいると言われています。
アルコール依存症との境界線について知っておき、自分自身や周囲の人の危険な飲酒状況に気づいて飲み方を変えることができれば、境界線から引き返すことができるのです。
ここからは、アルコール依存症の境界と進行の段階について解説していきましょう。
アルコール依存症進行プロセスは5段階
特定非営利活動法人ASKアルコール依存症の進行プロセスによると、アルコール依存症の進行プロセスは5段階に分けられます。
【アルコール依存症進行プロセス】
- スタート地点…習慣飲酒がはじまる
- 依存症との境界線…精神依存の形成
- 依存症初期…身体依存の形成
- 依存症中期…トラブルが表面化
- 依存症後期…人生の破綻
それぞれの段階がどのようなものか、順番に解説してみましょう。
アルコール依存症プロセス① スタート地点~習慣飲酒のはじまり~
◎機会あるごとに飲む。
◎酒に強くなり(耐性の形成)、酒量が増加する。
◎気分の高揚を求めて飲む。
アルコール依存症の進行プロセス|特定非営利活動法人ASKより引用
スタート地点では先ほど述べたように、苦しい・悲しい・さみしい・ストレスなどの理由から一時的に逃れるために、自己治癒の側面をもってお酒を飲みはじめることが多いようです。
機会があるごとに飲み、習慣的に飲み続けることでアルコールへの耐性ができて酒量が増加していきます。
もっと酔いたい、もっと気持ちよくなりたいと気分の高揚をお酒に求めるようになりはじめます。
やがて飲むことが習慣になり、習慣飲酒がはじまります。
アルコール依存症プロセス② 依存症との境界線~精神依存の形成~
◎ほとんど毎日飲む。酒がないと物足りなく感じる。
◎緊張をほぐすのに酒を必要とする。
◎酒量が増え、ほろ酔い程度では飲んだ気がしない。
◎ブラックアウト(記憶の欠落)が起きる。
◎生活の中で、飲むことが次第に優先になる。】
第二段階は依存症との境界線。多くの酒飲みがこの境界線上にいると言われており、いわゆる「酒癖が悪い人」と言われるようになる段階。
ほとんど毎日お酒を飲み、飲まないと気が済まないような物足りないような気持ちになります。
酒量が多く、ほろ酔いでは飲んだ気がせず泥酔するまで飲んでしまいます。
「ブラックアウト」と呼ばれる記憶の欠如(飲みすぎて記憶がなくなること)がおきます。
飲むことが「楽しみ」からいつの間にか「優先事項」に変わってゆき、生活の中でとても大切な、なくてはならないものになっていきます。
全てに当てはまらなくても、ひとつふたつなら思い当たることがある方も多いのではないでしょうか。
心あたりがある方、ココが境界線です。
知らぬ間に境界線を割らないように、精神依存が強くなる前に飲酒習慣を見直しましょう。
休肝日を設定し、飲まない日をつくりましょう。
お酒以外のストレス解消法や楽しめる趣味を見つけ、お酒なしでリラックスしてみましょう。
お酒以外の世界に目をむけられるよう、周囲の人はさりげなくサポートしてあげて下さいね。
アルコール依存症プロセス③ 依存症初期~身体依存の形成~
◎酒が切れてくると、寝汗・微熱・悪寒・下痢・不眠などの軽い離脱症状が出現し始める
が、自覚しないことが多い(風邪や体調不良と思う)。
◎飲む時間が待ちきれず、おちつかない。イライラする。
◎健康診断で酒量を少なめに申告する。
◎家族が酒をひかえるよう注意し始める。
◎酒が原因の問題(病気やケガ、遅刻や欠勤、不注意や判断ミス、飲酒運転検挙など)が起きはじめ、節酒を試みる。
依存症初期では寝汗・微熱・悪寒・下痢・不眠など身体の不調が発生しますが、風邪や体調不良の時と同じような症状のため自覚できないことが多いようです。
また、精神的に落ち着かずイライラしがちになり、飲酒が原因で遅刻や仕事上のミスを起こしてしまうようになります。
飲酒運転で検挙されることもあるよう。
家族が心配になり注意をし始め、度重なる失敗から自身でも節酒(お酒を控える・量を減らすこと)を心がけてみるもののうまくいかず、節酒に失敗する自身に対してさらにイライラが募るようになり、ストレスから逃れるためにまた飲酒する…負のループがはじまります。
アルコール依存症プロセス④ 依存症中期~トラブルの表面化~
◎二日酔いの朝の軽い手のふるえや恐怖感など、酒が切れると出る離脱症状を治すために、迎え酒をするようになる。
◎酒が原因の問題(病気やケガ、遅刻や欠勤、不注意や判断ミス、飲酒運転での検挙など)が繰り返される。
◎家庭内のトラブルが多くなる。
◎自分の酒に後ろめたさを感じ、攻撃的になる。
◎飲むためにウソをついたり隠れ飲みをしたりする。
◎職場では、上司からの注意・警告が始まる。
依存症中期にはトラブルが表面化しはじめ、酒が切れた時の離脱症状(禁断症状)として手のふるえや恐怖感などを感じるようになります。
周囲の人はアルコール依存症であることを確信する時期。家庭内ではトラブルが増加し職場では上司に注意されるようになる段階です。
自身も自覚がすすみ飲酒することへの後ろめたさを感じるようになりますが、後ろめたさを背景に攻撃的になってしまうことが多いようです。
また、後ろめたさからこっそりと隠れて飲むようになることも。
アルコール依存症による家庭内暴力やDVなどが発生したり、飲酒運転を日常的に繰り返すようになったりと現れ方は人それぞれですが、確実にアルコール依存症によるトラブルが表面化していく段階です。
アルコール依存症プロセス⑤ 依存症後期~人生の破綻~
◎コントロールしてうまく飲もうとするが、失敗する。
◎一人酒を好むようになる。食事をきちんととらない。
◎アルコールが切れるとうつ状態や不安におそわれるため、自分を保つために飲まざるをえない。
◎連続飲酒発作、幻覚(離脱症状)、肝臓その他の疾患の悪化により、仕事や日常生活が困難になる。
◎家族や仕事、社会的信用を失い、最後は死に至る。】
最終的に人生が破綻してしまう依存症後期。アルコールが切れるとうつ状態になる・幻覚が現れるなどの症状が出るため飲まざるをえなくなり、肝臓等の疾患が悪化して日常生活が困難になります。
家族や仕事を失い、最終的には死に至ることも。
アルコール依存症は命を失うこともある恐ろしい病気です。
決して甘くみてはいけません。
家族はどうすればいい?抱え込まず専門機関に相談して!

アルコール依存症に陥ると、一番困ってしまうのは家族です。
泥酔状態になった後の面倒をみなければなりませんし、迷惑をかけた先に謝罪に行く必要もあります。
また、攻撃的になる・注意しても耳をかさないなどコミュニケーションの面でも疲れ果ててしまいます。
アルコール依存症は病気なので、意志の力で禁酒することはほぼ不可能。アルコール依存症患者を家族だけで改善に向かわせるのは至難の業です。
家族は抱えこまずに専門機関に相談しましょう。
アルコール依存症を相談できる専門機関は多くあり、そして専門家の元で治療してゆけば、治すことのできる病気であることを忘れないで下さいね。
アルコール依存症は病気です!境界線上にいる人はUターンを

アルコール依存症スクリーニングテスト AUDIT
AUDIT は、6カ国(ノルウェー、オーストラリア、ケニア、ブルガリア、メキシコ、アメリカ)の調査研究に基づいて作成されたアルコール依存症スクリーニングテストで、人種や性別による差が少ないとされています。
このテストはAUDITのなかでもCore AUDITと呼ばれる10項目の質問にお答えいただき、アルコール依存症や将来の危険性を判定するものです。
アルコール依存症は意志の力や本人の性格は原因ではなく、適切な治療を受ければ回復が可能です。
本人が認めない「否認の病気」という特徴があるからこそ問題は深刻化しやすく、最終的に人生の破綻や死に至る恐ろしい病気。
家族や周囲の人にアルコール依存症の危険がせまっていたら、専門機関に相談してサポートしてあげて下さい。
そしてもしも、自身が境界線上にいるなと感じたらすぐに飲酒習慣を見直しましょう。
家族・仕事・日常生活・そして命。
大切な全てをお酒に奪われることのないよう、お酒とは楽しく適切に付き合いたいですね。